映画感想 フルメタル・ジャケット

些細なことではあるが初めてPCで書いている。スマートフォンのメモ帳に書いたものを特に整形もせず流し込むとレイアウトがたまに盛大にアレするらしいことがわかったのと,単にPCの方が筆が乗るのとが理由。

 

iTunesで映画を購入して大学のWifiで鑑賞した。スタンレー・キューブリックフルメタル・ジャケット」。*フゥーハハハ!*とか*まるでそびえ立つクソ*とかの元ネタである。余談だが日本語字幕にキューブリックの監修が入って戸田奈津子氏が降ろされるという経緯があったらしく,ハートマン軍曹および海兵隊の皆さんの発する汚い言葉がいやに誠実に訳されている。氏は「逐語訳では何のことなのか伝わらないではないか」といつもの言い訳をしたらしいんだが,ブービートラップ」のカタカナ語が定着していない当時ならともかく,今観るならば「あちらにはそういう言い回しがあるのだったな」と原語独特の言い回しのままである程度伝わるので,字幕に違和感を感じることは少ない。キューブリック作品で既に観ているものは「時計じかけのオレンジ」「博士の異常な愛情」「シャイニング」だけ。ものすごく昔に「2001年宇宙の旅」を観たことがあるような気がしないでもないが,これだけ。

 

映画の内容の話

 

あらすじの話

 

-映画は前半と後半の2部構成である(別に舞台や時代や登場人物があるポイントで変わる,といった意味ではない。内容は連続しているが,ある1箇所においてのみ無視できない時間の飛躍が発生するので,実質的に2部構成に見えるのだと思う)。

 

-前半は,志願だったり再教育だったり,色々な理由でベトナム戦争へ向かうアメリカ海兵隊の訓練所に若者たちがブチ込まれ,ハートマン軍曹(あえて説明するまでもない)の指導から卒業するまで。訓練過程を卒業したジョーカー(おそらく主人公と言っていい人物)がいざ戦地ベトナムに降り立つも,与えられた仕事は報道員で……というのが後半。

 -どこまでを「明示されたストーリー」と言い切っていいのかが判断できないので,あらすじについてはこれくらいのフワフワした説明で済ませる。

 

総評

-乱雑な感想を適切な文脈に回収して記述するような余裕がないので,少しやりすぎ気味に丸め込んだ所感を記す。

 -(これは個人的所感を説明するために必要と思われる前置きなのだが)「個別の経験を適切に敷衍して,何らかのフィードバックを得る」というプロセスを圧縮してパッケージにしたものが物語だとするならば,「作者の意図」とか「映画の独自性」なるものはデータの選別等々にかかる恣意性のことである。

 -フルメタル・ジャケットに,何らかの「物語」を見出すことは難しいように感じた。

   -その理由について,この映画が(ホロコーストならまだしも)「ベトナム戦争」を扱っていることは少なからず関係するだろう。ベトナム戦争という事件において何が善で何が悪だったかということを誰でも簡単に言い切れるようなコンセンサスは存在しない。殺されるベトナム人にしても全員が全員無辜の民とも言えない。撃たなければこちらがライフルを叩き込まれる。刷り込まれた海兵隊マインドが余計に退路を絶って,「*ホント戦争は 地獄だぜ!*」と言わずにはおれんのである。

  -たとえば,ヘルメットにBORN TO KILLなんて書きながら胸にはピースマークのバッヂをつけたジョーカーくんを「中途半端なアメリカ」,スナイパーの少女を「決死の北ベトナム」に置き換えて,国際情勢の風刺として映画全体を再解釈するような行為も可能だろう,というかまず間違いなくそういう視点で論評をしている人間は存在するだろう。が,それをやってしまうと,この映画が経験として与えてくれるもののうちのあまりにも多くをノイズとして処理しなければならないだろう。少なくとも自分はわざわざそんな面白くないことはできない。ひとえにやる気が出ないので。

  -「よいコンテンツが何かは知らないが,少なくとも国や時代を跨いで広く支持されるコンテンツというものは,舞台や時代といった文脈を強く限定しないし,我々に自由な解釈の余地を提供する」というのをどこかで聞いたが,この映画についてもなんとなく同じ種類のものを感じる。

 

-「ベトナム戦争」という固有の時代,固有の地,固有の体験から,演出のクサさをにじませることなく普遍的な何かを提示しているのがこの映画のヤバいところである,というくらいまでは言い切っておいていいかもしれない。

 

雑感(相当のネタバレを含む)

 

-映画フルメタル・ジャケットにおいて最も気持ちのよい点のひとつはタイトル回収である。鋼鉄にメッキされた海兵隊謹製の狂気がベトナム人の少女の額を撃ち抜くという一本筋が,かなりディテールを無視してしまっているとはいえ純粋に気持ちがいい。ジョーカーくんの「人を殺したい」という冒頭の叫びに対して,ローレンスは一足先に被服装甲弾になってしまう。俺も早くあれにならなければ,と突き進んだ先にやっと現れた少女の額を撃ち抜いてみるが死体は答えをくれない。

 -軍事だとか兵器だとかの知識には疎いのだが,映画で知った限りフルメタル・ジャケットとは被覆装甲弾というものを言うらしい。貫通性が高く必要以上に身体を破壊しないので,人道上の理由により軍用の銃弾は基本的にこれなんだそうな(今調べた)。前半部のラストシーンで"ほほえみデブ"ローレンスによって,単語として初めて言及される。

 -主人公(がいるとすれば彼であろう)ジョーカーくんは,自分の中に何か尖ったものがほしくて,あるいはキラキラできる場所がほしくて銃に憧れたクチである。「貴様はなぜ海兵隊に志願した!」「殺すためです!「人を殺すときの顔をしてみせろ!」。

 -対して"ほほえみデブ"ローレンスはママに家から追い出されて海兵隊にブチ込まれたクチ。初っ端からハートマンに目を付けられ,実際に訓練の様子もボテボテしていて,ハートマンは喜んで彼を痛めつける。加えて,ハートマンがローレンスの責任を本人の代わりに同僚に負わせるということを始めてからは,同僚たちほぼ全員にリンチを受けるようになる。

 -口だけはデカくてハートマンに気に入られていたジョーカーはなんだかんだローレンスの世話役になる。ローレンスが徐々に狂っていく様子には気づいていたが,訓練過程最終日の晩,ローレンスはハートマンを撃って自殺。先に「人を殺すときの顔」を獲得したのはローレンスのほうだった。これが「フルメタル・ジャケット」の語が初めて登場する前半部ラストシーン(あまりにも美しいので是非観て欲しい)。

 -晴れてベトナム戦争に従軍したジョーカー。任される仕事は情報員としての後方デスクワーク。上官数人に喧嘩を売った結果,晴れて最前線に移動するが,旧市街地で狙撃を受け次々に隊員を殺される。血気盛んな数名に押し切られるように隊は”お礼参り”に走り,狙撃者が潜む建物に突入するが,そこに居たのは単独で籠城するベトナム人少女だった。自動小銃でも少女は即死できず,ジョーカーに銃殺を懇願。ジョーカーは「殺す」という入隊の目的をようやく達成できたが,人を殺すときの顔は最後まで獲得できなかった。

 

考えられるバイアス

-レンタル400円ではなくわざわざ購入1500円のほうで買うくらいには期待してた

-夜半にレポートを書きながら再生していたのでつらいところへの感情移入が凄かった

-海兵隊の訓練方法に中学時代を重ねてしまい登場人物に必要以上に共感していた(理不尽制裁つらいよねとかそういう話ではなく,むしろアレはある種の目的に対して最もよく採用される方法というだけなのだけど,思考放棄ってある種陶酔するよね)